行政書士として入管業務に携わる中で、私がもっとも力を注いできた分野のひとつが「技能実習制度」です。

この制度は、ただビザの申請や手続きをこなすだけでは本当の支援になりません。

実習生一人ひとりの人生や、送り出し国の状況、そして受け入れる企業や団体の想いを汲み取り、制度の本来あるべき姿を見つめ続けることが大切です。

私自身、あるときフィリピンを訪れる機会がありました。

その体験が、私にとってこの制度の意味を根底から問い直すきっかけとなったのです。

この記事では、そのとき感じたこと、そして現場での経験をもとに、行政書士として技能実習制度とどう向き合ってきたのかをお話ししていきます。

フィリピン渡航で見えた「夢」と「現実」

数年前、私は技能実習制度の送り出し国のひとつ、フィリピンを訪れました。

向かったのは、首都マニラから離れた地方都市にある送り出し機関です。

そこには、日本で働くことを夢見る若者たちが集まり、日本語の授業を受けていました。

私が訪問した教室では、10代後半から20代前半の青年たちが「こんにちは!」「ありがとうございます!」と元気に挨拶してくれました。

彼らの目はキラキラしていて、「日本はチャンスの国」「家族を助けたい」と話してくれたことを、今でも覚えています。

でも、現地の担当者や卒業生から聞かされた話は、それとは対照的な現実でした。

ある卒業生は、日本での実習先で長時間働かされ、まともに休みも取れず、精神的に追い詰められたそうです。

帰国後もトラウマに苦しみ、再就職もうまくいかず、希望を失ってしまったと聞きました。

日本に行くことは、ただの「夢」ではなく、人生をかけた大きな賭けなのだと痛感しました。

このとき私は強く思いました。

日本にいる私たち行政書士こそ、現実を知る必要がある。

それ以来、私は書類を作るだけでなく、実習生が安心して日本で暮らせるよう、周囲との連携や制度改善に力を入れるようになりました。

宗教法人との信頼関係が支援のカギ

フィリピンでは宗教、特にカトリックの影響力がとても大きいです。

送り出し機関の中には、地元の教会や宗教法人と強い結びつきを持っているところも多くあります。

実際、私が訪れた送り出し機関のひとつは、教会が運営する施設でした。

そこで出会った神父様は、若者たちの教育だけでなく、心の支えとしても大きな存在になっていました。

私が「日本で困ったことがあれば、私たち行政書士が支えます」と話すと、神父様は目を細めてこう言いました。

「あなたのように現地まで来て、話を聞いてくれる人は本当に珍しい。だからこそ、あなたには期待している」と。

その言葉に私は、責任の重さとともに、やりがいも感じました。

宗教法人は、単なる送り出し機関ではなく、若者の精神面や家庭背景を深く理解している存在です。

だからこそ、彼らと信頼関係を築くことが、制度支援の第一歩になります。

たとえば、ある宗教法人では、実習生のために奨学金制度を設けており、貧困層の子どもたちが少しでもチャンスを掴めるよう支援していました。

このような背景を知ることで、私たち行政書士も「どういう人たちが制度に関わっているのか」を、より深く理解できるようになります。

日本側の監理団体との信頼構築も欠かせない

実習生が日本に来てから最も密接に関わるのが「監理団体」です。

彼らは実習生の生活支援や企業との橋渡しを担っていますが、最初は私も「行政書士は書類だけの人」と見られていました。

でもある日、一人の実習生がメンタル面で不調を訴え、相談してきました。

監理団体では対処が難しかったため、私が個別に支援に入りました。

その対応をきっかけに、監理団体のスタッフから「あなたがいてくれて助かった」と言われ、信頼が生まれました。

それからは、監理団体が行うオリエンテーションにも同行し、実習生に直接制度の説明をしたり、日本での生活ルール、日本語の大切さなどを伝えるようになりました。

さらに、定期的な住環境チェックや、日本人との交流イベントの開催なども一緒に企画するようになりました。

こうした積み重ねが、実習制度の土台を支える力になると、私は信じています。

行政書士の役割は「人と人をつなぐ」こと

技能実習制度における行政書士の役割は、書類作成だけではありません。

現場でのトラブルを未然に防ぐアドバイスをしたり、企業との間を取り持ったり、実習生の声を拾い上げたりする「橋渡し役」でもあります。

夜中に実習生から「監理団体には言いづらいけど、悩んでいる」と電話をもらうこともあります。

そんなときは、ただ話を聞くだけでなく、どうすれば解決できるか一緒に考え、必要であれば専門機関にもつなげます。

また、企業側が制度違反をしないように、コンプライアンス研修や外国人雇用に関する勉強会を開くこともあります。

チェックリストを作成して、企業担当者が日々の対応を見直せるようにするなど、制度の質を高める取り組みも行っています。

制度の矛盾とこれからの課題

制度上、技能実習は「人材育成」が目的とされています。

でも実際は、安価な労働力として使われてしまっている現場も、残念ながら存在します。

過酷な労働環境、孤立する実習生、トラブルが起きても責任の所在があいまいな状況……。

こうした矛盾は、制度の構造そのものに問題があると感じています。

最近では「特定技能」など新しい在留資格も登場し、制度の流れも変わりつつあります。

でも、大切なのは制度の名前ではなく、中にいる「人」がどう扱われているかです。

私は業界団体の勉強会や国会議員との意見交換にも参加し、現場の声を届ける活動も続けています。

行政書士として、制度のグレーゾーンに切り込んでいく覚悟が必要だと思っています。

まとめ

技能実習制度に関わる行政書士の仕事は、決して机の上だけで完結するものではありません。

現地との信頼構築、宗教や文化への理解、監理団体との協力、実習生の声をすくい上げること。

すべてが人と人のつながりに支えられています。

私がフィリピンで出会った若者たち。

夢を抱いて来日した実習生たち。

宗教法人で語り合った神父様。

そして、日本で支える監理団体や企業の方々。

そのすべての人との出会いが、私にこの仕事の意味を教えてくれました。

行政書士として技能実習制度に関わる皆さんへ。

もし機会があるなら、ぜひ一度送り出し国に足を運んでみてください。

現場のリアルな声、若者のまなざし、宗教や文化の温もりに触れることで、この制度の本当の価値が見えてくるはずです。

そして何より、それが実習生の「未来を守る」ことにつながると、私は信じています。