最近、ネット上で「行政書士の年収が弁護士を超えた」とする記事を見かけました。タイトルだけ見ると、「え?マジで!?」と目を引かれますよね。行政書士として日々業務に追われる身としては、当然興味をそそられましたし、何より「行政書士がそんなに稼げる職業なのか」と世間が認識してくれるなら、それは嬉しいことです。

でも、正直な感想を言えば、ちょっと首をかしげてしまう部分もありました。

この記事では、「行政書士の年収が弁護士を上回った」とするネット情報の真偽について、私自身の実体験や業界内の肌感覚を交えながら、リアルな行政書士の現実を綴っていきたいと思います。

「行政書士が弁護士より稼げる?」ネット記事の内容

問題の記事は、2024年1月25日に「日本資産運用基盤グループ」のnoteで公開されたもの。そこでは、AIによる弁護士業務の代替が進んでいる一方で、行政書士は「完全な定型業務ではなく、かつ属人的で経験知が求められる」ため、AIに置き換えられにくく、収入が伸びているという趣旨の記述がありました。

また、日本FP協会の会報誌『FPジャーナル』2024年1月号でも、「AIによる代替可能性が低く、年収は行政書士のほうが高い」といった言及がされたそうです。

…と、ここまで聞くと、確かに「行政書士のほうが収入が高い」という印象を持つかもしれません。でも、その文脈を読み込んでいくと、実際のところ、年収の比較や根拠はやや曖昧です。

行政書士の平均年収って、実際どれくらい?

私自身、開業して数年になりますが、周囲の行政書士仲間と話していても「そんなに簡単に稼げる仕事じゃないよね」というのが共通認識です。

公的なデータを見てみると、厚労省の「賃金構造基本統計調査」における行政書士の平均年収は、だいたい300万〜400万円程度で推移しています。一方、弁護士は700万〜800万円台。少なくとも、統計的には「行政書士>弁護士」とは言えません。

もちろんこれは「平均値」であって、実際には、年収1000万超の売れっ子行政書士もいれば、開業したものの年収100万円にも満たない方もいます。つまり、ばらつきが非常に大きい職業なんです。

なぜ「行政書士の年収が高い」と言われるのか?

とはいえ、ネット記事のように「行政書士の年収が弁護士を超えた」と言われる背景には、いくつかの要因があると私は考えています。

1. AIによる業務代替の影響

確かに、最近の生成AI(ChatGPTなど)の発展によって、法律相談の初期対応や契約書作成の定型部分は自動化が進んできています。これは弁護士業務の一部にも直撃していることは間違いありません。

ただし、行政書士も定型的な業務は多く、例えば建設業許可や入管申請、各種法人設立などは、テンプレート業務化しやすい分野です。「行政書士はAIの影響を受けにくい」と断言するのは少し楽観的すぎる気もします。

2. 弁護士の飽和問題

ここ数年、法科大学院制度の影響で弁護士の数が大幅に増えたこともあり、「弁護士なのに仕事がない」「時給換算するとコンビニより安い」といった声がSNSでも見られます。特に若手弁護士ほど、そうした現実に直面しているようです。

一方で、行政書士は相対的に競争が緩やかで、資格取得後すぐに開業する方も多いので、「独立してすぐに軌道に乗せる人」も一定数います。こうした事例が「稼げる行政書士」のイメージを後押ししているのかもしれません。

3. SNSやネットでの“成功バイアス”

TwitterやYouTubeでは、「行政書士で月商100万円」「開業半年で年収1000万円」みたいな景気の良い投稿がバズることがありますよね。でもこれ、実際にはかなりの“成功バイアス”がかかっていると思っています。

私自身、SNSではフォロワーが多く「稼げてそう」と見られがちですが、正直、月によって売上に波もあるし、広告や人件費、事務所家賃など経費を差し引けば「手取り」は思ったほど多くないのが現実です。

行政書士で稼げる人、稼げない人

行政書士として年収1000万円以上を安定して稼げる人は、全体の5%〜10%くらいではないかというのが私の肌感覚です。その中には、以下のようなタイプが多いです:

  • 高単価の専門業務に特化している人(例:入管業務、建設業許可、VISA申請)
  • 法人顧客を複数抱えている人
  • 営業・集客が得意で、自身をブランド化できている人
  • 人を雇い、組織化して業務効率を高めている人

逆に、「とりあえず開業したけど営業ができない」「仕事の取り方がわからない」「法改正に追いつけない」といった方は、なかなか厳しい状況に陥ります。

資格そのものが飯を食わせてくれるわけではなく、“どう動くか”がすべてを決めるのです。

私が思う、行政書士という仕事の本質

行政書士は、「稼げるからやる」仕事というより、「この仕事を通じて誰かの役に立ちたい」「専門家として信頼を得たい」と思える人に向いている職業だと思います。

AIやDXが進化しようとも、「人と人との信頼」「人間の文脈理解」は、まだまだ人間にしかできない部分があります。実際、私の業務でも、お客様から「先生にお願いして良かった」と言われる瞬間が、一番のやりがいです。

「稼げるかどうか」だけで行政書士を語ると、本質を見誤る気がします。

まとめ 〜結局、現実はどうなのか〜

「行政書士の年収が弁護士を超えた」という言葉が独り歩きして、「行政書士=楽に稼げる資格」みたいな幻想を持ってしまう方が増えるのは、少し心配です。

確かに、行政書士は独立しやすく、専門特化すれば年収1000万円以上も狙える可能性はあります。でも、それはあくまで“ごく一部”の話。大半の行政書士は、日々地道に営業し、コツコツと信頼を積み重ねながら、ようやく生計を立てているのが現実です。

だからこそ、私はこの仕事を誇りに思っていますし、これからも地に足をつけて、信頼される行政書士でありたいと思っています。

華々しい成功例だけを見て飛び込むのではなく、「この仕事に誠実に向き合えるか」を自分に問いながら、一歩ずつ進んでいきましょう。